「タワマン買って相続税節税」をすべきでない人(実践編)

タワーマンションと、タワマン節税のしくみ・2022年最高裁判決・2024年評価ルール改正をまとめた資料を前に考える税理士 不動産投資

2021年に書いたキソ編の最後に、「続編ではこれを利用したタワマン節税について解説します」と書きました。

そのまま、5年が経ってしまいました。

5年放置した続編を、今ごろ書いています

書かなかった言い訳をするつもりはないのですが、結果としては、書かなくてよかったと思っています。

この5年のあいだに、タワマン節税をめぐる状況は二度変わりました。2022年に最高裁の判決が出て、2024年には評価のルールそのものが改められたからです。

2021年の予定どおりに続編を書いていたら、今ごろ全面的に書き直すことになっていました。

というわけで、あらためて続きを書きます。まず仕組みの話からです。

タワマン節税のしくみ

キソ編で書いたのは、「現金を不動産に換えると、相続税の評価額が下がる」という話でした。おおよそ7割程度になる、と。

分譲マンション、それも高層階の物件では、この差がもっと大きくなります。理由は三つあります。

ひとつめは、土地の持分が小さいこと。マンションは一棟の敷地を戸数で分け合いますから、一戸あたりの持分はごくわずかです。戸数が多い建物ほど、一戸あたりは小さくなります。土地の評価は路線価に持分を掛けて出しますから、持分が小さければ評価額も小さくなります。

ふたつめは、建物の評価が階数で変わらなかったこと。相続税の建物評価は固定資産税評価額をそのまま使いますが、これは同じ建物・同じ専有面積なら、1階でも40階でもほぼ同額でした。ところが実際の売買価格は、上の階ほど高い。眺望や日当たりの分が価格には乗るのに、評価額には乗らないわけです。

(なお固定資産税については、2018年から新築の高層マンションに階数による補正が入るようになりました。ただし、それ以前に建った建物には及びません)

みっつめは、借入です。相続財産からは債務を引けます。1億円を借りて1億円の物件を買えば、財産のほうは7000万円と評価され、債務は1億円のまま残る。差引3000万円のマイナスが、他の財産にぶつけられることになります。

この三つが重なると、時価と評価額の差は数倍に開きます。ここに目をつけたのが、いわゆるタワマン節税でした。

2022年、最高裁が止めました

この手法が正面から否定されたのが、令和4年4月19日の最高裁判決です(最高裁判所第三小法廷 令和4年4月19日判決/税務訴訟資料 第272号 順号13704・PDF)。

事案は、こういうものでした。

被相続人は平成21年に、信託銀行から6億3000万円を借りて8億3700万円の不動産を購入し、同じ年にもう一件、3億7800万円ほかを借りて5億5000万円の不動産を購入しています。購入額は合計約13億8700万円、借入は合計約10億5500万円。そして平成24年に亡くなりました。

相続人は、この二件を財産評価基本通達(路線価など)で評価して、合計約3億3000万円と申告しました。借入と差し引きした結果、課税価格の合計は2826万1000円。基礎控除の範囲内で、相続税は0円です。

これに対し税務署は、通達によらず不動産鑑定を実施しました。鑑定評価額は合計約12億7300万円。この金額で課税価格を計算し直すと8億8874万9000円となり、相続税の総額は2億4049万8600円。この更正処分が争われました。

結論は、納税者の敗訴です。

判決文で大事なのは、負けた理由の説明のしかたです。

最高裁はまず、評価額に大きな乖離があること自体は、通達によらない評価を許す理由にはならないと述べています。ここは意外に思われるかもしれません。乖離が4倍あったからアウト、という話ではないのです。

そのうえで、こう続きます。購入・借入がなければ課税価格の合計は6億円を超えていたのに、これを行ったことで相続税が0円になっている。しかも被相続人と相続人は、その購入・借入が「近い将来発生することが予想される相続において相続税の負担を減じ又は免れさせるもの」だと知り、それを期待して、あえて企画して実行した——。

だから、そういう行為をしない、あるいはできない他の納税者との間に「看過し難い不均衡」が生じる。実質的な租税負担の公平に反する。ゆえに通達によらない評価も平等原則違反ではない、という組み立てです。

問題にされたのは、評価額の差ではなく、意図と時期でした。

なお細かい話ですが、この事案の物件は賃貸マンションで、厳密には「タワマン」ではありません。報道で一括りにされているだけです。ただし、借入と評価の乖離を使って圧縮するという構造は同じですから、タワマン節税にもそのまま当てはまります。

2024年、評価ルールそのものが変わりました

判決から1年半後、今度は国税庁が評価方法を改めました。

居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)。令和6年(2024年)1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用されています(国税庁タックスアンサーNo.4667)。

考え方はこうです。

まず、その部屋の「評価乖離率」を計算します。使うのは四つの要素です。

  • 築年数(古いほど下がる)
  • 総階数指数(高い建物ほど上がる)
  • 所在階(上の階ほど上がる)
  • 敷地持分狭小度(土地の持分が小さいほど上がる)

つまり、タワマン節税が効く条件が、そのまま数式になっています

次に、この乖離率の逆数を「評価水準」とします。評価水準が0.6未満、つまり従来の評価額が時価の6割を下回っていると計算される場合には、6割の水準まで評価額を引き上げます。逆に評価水準が1を超える(評価額のほうが時価より高い)場合は、引き下げます。

国税庁が示している計算例で見ると、築27年・11階建て・3階・専有60平方メートル・敷地持分21平方メートルという部屋で、補正率は1.2258。従来400万円だった建物部分が約490万円、1050万円だった土地部分が約1287万円になります。中層階の中古マンションでこの数字ですから、新しい高層階の物件ではもっと大きく動きます。

適用されないものもあります。事業用のテナント物件、区分登記されていない一棟所有の賃貸マンション、地階を除く総階数が2以下の低層集合住宅、二世帯住宅などです。詳しくは国税庁のQ&Aパンフレットにまとまっています。

キソ編で「不動産なら7割くらい」と書きましたが、分譲マンションについては、その前提が崩れたということです。

では、すべきでない人とは

ここまでを踏まえて、記事のタイトルに戻ります。

近い将来の相続が見込まれる方。高齢であったり、健康上の事情があったりする場合です。最高裁が問題にしたのは、まさにこの「近い将来発生することが予想される相続」でした。時間的な余裕がないほど、否認されるリスクは高くなります。

借入をして買う方。判決で決め手になったのは、購入と借入をセットで企画したことでした。自己資金での購入まで一律に否定されたわけではありませんが、借入を組み込んだ瞬間に、話の性質が変わります。

相続後すぐ売るつもりの方。買って、相続を通して、売って現金に戻す。この一連の流れが最初から想定されているなら、それは節税の意図そのものです。

住むつもりも貸すつもりもない方。逆に言えば、実際に住む、あるいは貸して収益を得るという目的があるなら、話は違ってきます。判決の事案でも事業承継目的だという主張はされていて、それでも認められなかったわけですが、実需の有無は大きな要素です。

相続人が複数いる方。これは税とは別の問題です。マンション一戸は分けられません。現金なら数字で割れたものが、不動産にした瞬間に分けにくくなる。揉める原因を自分で作ってしまうことがあります。

そして共通するのは、「業者にすすめられて」検討している場合です。キソ編の最後に、僕はこう書きました。

節税に見えるが実際には業者が儲かるだけといったことが無いようにしたい

5年経って、この心配は当たっていたと言わざるを得ません。

5年越しの答え合わせ

タワマン節税は、法律で禁止されたわけではありません。

止めたのは、最高裁の判断と、国税庁の通達です。制度の側が「これは不公平だ」と判断すれば、こうして手法は効かなくなる。節税商品というのは、そういう性質のものです。

そして、効かなくなったときに残るのは、買った不動産と、借りたお金です。

一方で、キソ編でも書いたとおり、「相続対策」と「相続税対策」は別ものです。誰に何を渡すのか、判断能力が落ちたときにどうするのか、残された家族が困らないか。こちらは制度が変わっても消えません。むしろ、こちらのほうが効きます。

不動産を使った対策を検討されている方、あるいはすでに購入されていて申告が控えている方。ご自身のケースがどう扱われるのか、一度確認しておかれることをおすすめします。

相続税の計算には細かい規定が多く、このブログではあくまで骨格をお伝えしています。実際の判断は、必ず専門家にご確認ください。当事務所でも、お話をうかがうところからお手伝いできます。

参照した資料

兵庫県尼崎市の税理士事務所

相続・不動産の税務相談は唐沢会計事務所へ

開業40年。相続・不動産・事業承継のご相談を専門に承っています。初回相談は30分無料、ご相談から申告まで税理士本人が担当しますので、担当者が変わることはありません。尼崎近隣の方はもちろん、全国リモート対応にてご相談いただけます。

お電話でのご相談:06-6421-7133(平日 9:00〜17:00)

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