「潮江は駅前がずいぶん立派になりましたよね。うちも土地、上がってるでしょう」
先日そう言われて、その場では「場所によります」としか答えられませんでした。
気になったので、あとで数字を全部並べてみたんです。
潮江の住宅地は、31年前より安いままです
公示地価には、潮江3丁目(JR尼崎駅から850m、住宅地)という標準地があります。1995年から31年分のデータがそろう、貴重な地点です。
| 年 | 価格 | メモ |
|---|---|---|
| 1995年 | 237千円/㎡ | 31年間の最高値 |
| 2004年 | 172千円/㎡ | — |
| 2008年 | 185千円/㎡ | リーマン前の山 |
| 2013〜2020年 | 167千円/㎡ | 8年間まったく動かず |
| 2022年 | 166千円/㎡ | 31年間の最安値 |
| 2026年 | 180千円/㎡ | — |
この標準地で見ると、2004年から22年で+4.7%。
1995年と比べればマイナス24%。2008年と比べてもまだマイナス2.7%です。
「ずいぶん上がった」という実感とは、ずいぶん違いますよね。
駅前だけが別世界です
一方、潮江1丁目(JR尼崎駅から270m、商業地)はこうです。
| 年 | 公示地価 | 路線価 |
|---|---|---|
| 2016年 | 650千円/㎡ | 540千円/㎡ |
| 2026年 | 940千円/㎡ | 780千円/㎡ |
10年で+45%。
徒歩4分と徒歩10分。同じ「潮江」でこれだけ違います。
なぜそうなったのかは、街の履歴を見るとわかります。
キリンビールが抜けたあとの30年
1996年、JR尼崎駅北側のキリンビール尼崎工場が操業を停止しました。
同じ年、尼崎市はその跡地を含む北西地域整備事業「あまがさき緑遊新都心」を策定。1999年にはJR尼崎駅北市街地再開発事業で「アミング潮江」が誕生しています。
跡地の商業施設「COCOE」がオープンしたのは2009年10月。その後、名称が「あまがさきキューズモール」に変わって今に至ります。
工場が止まってから、跡地に商業施設が建つまで13年かかっているんですね。
潮江の分譲マンションの竣工年を並べると、この流れがそのまま出ます。
- 1997年 パストラール尼崎(140戸)、ラヴェール尼崎(168戸)
- 1999年 アミング潮江(ウエスト1番館・2番館・プラストなど計380戸超)
- 2004年 ルネマスターズタワー(27階建・275戸・駅徒歩1分)
- 2008年 ローレルスクエア尼崎ルネガーデンテラス(22階建・463戸)
- 2012〜2014年 尼崎D.C.グランスクエア群など
(全国マンションデータベースの登録分に基づきます。網羅されていない物件がある可能性はあります)
供給は波になっていて、駅に近いほど後の波で高い値がついています。土地の値段が大きく上がったのは、こうした開発が集中した駅前の限られたエリアだったことが見えてきます。
ここからが本題です
税理士として気になるのは、この非対称が税金の計算にどう出るかです。
2000年代前半に潮江でマンションを買った方にとって、購入からすでに20年以上が経ちました。売るか、住み続けるか、将来子どもに渡すかを考え始める方も増えてきます。
論点は2つあります。
1つめ。売るときの譲渡所得
土地の値段が22年でほぼ動いていないなら、売っても儲かっていない。だから税金もかからない。
そう思われがちですが、そうとは限りません。
マンションの取得費は土地と建物に分かれます。このうち建物部分は、保有期間に応じて減価償却相当額を差し引いて計算します。非事業用の鉄筋コンクリート造なら、耐用年数を1.5倍した年数で計算するので、償却率は年0.015。22年経過なら建物の取得費は約3割が削られることになります。
たとえば建物部分が2,000万円なら、22年で減価償却相当額は約594万円。売却価格が購入時とそれほど変わらなくても、税務上の取得費はその分だけ小さくなっています。
※実際の計算では、土地・建物の取得価額や譲渡費用などによって結果は変わります。
つまり、実際の値段は横ばいでも、計算上は譲渡益が出ることがある。ここが実感とズレるところです。
もっとも、マイホームなら居住用財産の3,000万円特別控除があります。所有期間10年超なら軽減税率も使えます。2004年に購入したマイホームなら、所有期間の要件はクリアしています。その他の要件を満たせば、3,000万円特別控除と軽減税率を使えます。
多くのケースでは、3,000万円特別控除を使えば税額ゼロで着地するでしょう。
ただし、ここには落とし穴があります。この特例は自動的には適用されません。適用を受けるには確定申告が必要です。ここを知らずに放置してしまう方が、実際にいらっしゃいます。
2つめ。相続のときの評価が、2024年に変わりました
こちらのほうが影響は大きいと思っています。
令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した分譲マンションについては、「居住用の区分所有財産の評価について」という国税庁の法令解釈通達が適用されます。
ざっくり言うと、これまでの相続税評価額に「区分所有補正率」を掛けて評価し直す仕組みです。
補正率は、その部屋の築年数・総階数・所在階・敷地持分の狭さという4つの要素から算出した「評価乖離率」をもとに決まります。評価水準が0.6未満なら評価乖離率に0.6を掛けた値を、1を超えるなら評価乖離率そのものを、評価額に乗じます。
国税庁は見直しの理由として、分譲マンションの相続税評価額と市場価格が平均で2.34倍乖離していたことを挙げています。一戸建てが市場価格の6割程度で評価されていることとのバランスを取る、という趣旨です。
潮江の駅前には27階建、22階建、20階建といったマンションが並んでいます。高層で、1戸あたりの敷地持分が小さいほど、補正は大きく効きます。
一方で築年数が古いほど乖離率は下がる方向に働くので、2004年築の物件が新築タワーと同じだけ跳ね上がるわけではありません。それでも、2023年までの感覚で試算した評価額は、もう当てになりません。
なお、この通達には適用されないものもあります。
- 地階を除く階数が2以下のもの(低層の集合住宅)
- 居住用の専有部分が3室以下で、その全てを区分所有者かその親族が住んでいるもの(いわゆる二世帯住宅)
- 区分建物の登記がされていないもの(一棟所有の賃貸マンションなど)
出典は国税庁の居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)です。
潮江3丁目のような戸建てエリアの方へ
最後に、駅から離れた住宅地をお持ちの方に一言。
少なくとも地価公示を見る限り、この一帯の住宅地が「ものすごく値上がりした」という状況ではありません。相続税評価についても、駅前のマンションと同じ感覚で心配する必要はありません。
「地価が上がったから相続税が心配」というご相談をよく受けますが、潮江の住宅地に関して言えば、そこまで身構える必要はないケースのほうが多いと思います。小規模宅地等の特例が使えるなら、なおさらです。
不安を煽られて慌てるより、自分の土地の実際の数字を一度見ておくほうがずっといい。僕はそう考えています。
数字の出どころ
- 公示地価:国土交通省「地価公示」(令和8年)
- 路線価:国税庁「令和8年分の大阪国税局各税務署管内の最高路線価」ほか各年分
- マンション竣工年:全国マンションデータベース登録分
- 街の履歴:尼崎市の事業資料および報道
潮江1丁目の標準地は2016年に選定された地点のため、それ以前は遡れません。潮江3丁目の2001年分は公表データが欠けています。
ご自宅の土地がいまいくらで評価されるのか、売ったときにいくら税金がかかるのか。場所と面積、購入時の資料があれば、まず概算を確認できます。
お気軽にご相談ください。まずはお話をうかがうところから始めます。

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