相続税の申告をめぐって、国税庁がどれくらいの調査を行い、どれくらいの申告漏れを見つけているのか——。2025年に国税庁が公表した「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」から、注目のポイントをまとめました。相続税の申告を控えている方はもちろん、「うちは大丈夫」と思っている方にも参考になる内容です。
※出典:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」
そもそも何のデータ?
このデータは、税務署・国税局が実際に行った「実地調査」(自宅などに直接訪問して行う本格的な調査)と、「簡易な接触」(文書や電話、来署依頼などによる簡易な確認)の結果をまとめたものです。令和6事務年度(おおむね2024年7月〜2025年6月)に行われた分が対象です。
実地調査を受けたら、8割以上で申告漏れが見つかっている
まず驚くのが「非違割合」、つまり調査を受けた人のうちどれくらいの割合で申告内容に問題(漏れや誤り)が見つかったかという数字です。
令和6事務年度に行われた実地調査は9,512件(前年度比111.2%)で、このうち非違が見つかったのは7,826件。非違割合は82.3%にのぼります。前年度の84.2%よりはやや下がったものの、依然として「調査に入られたら8割以上の確率で何かしら指摘される」水準です。
この結果、実地調査による追徴税額の合計は824億円(前年度比112.2%)、申告漏れとなっていた課税価格の合計は2,942億円(前年度比107.2%)でした。1件あたりに直すと、申告漏れ課税価格は約3,093万円、追徴税額は約867万円という計算になります。
「簡易な接触」も急増中
自宅訪問を伴う実地調査だけでなく、文書や電話でのやり取りで済ませる「簡易な接触」も増えています。令和6事務年度は21,969件(前年度比117.0%)と、平成28事務年度以降で最も多い件数になりました。
このうち5,796件で申告漏れが見つかり、申告漏れ課税価格は1,123億円、追徴税額は138億円。1件あたりでは申告漏れ課税価格511万円、追徴税額63万円と、実地調査に比べると規模は小さいものの、件数の多さでカバーしている印象です。国税庁が「対面での調査」と「文書・電話での効率的な確認」を使い分けている様子がうかがえます。
何を申告し忘れているのか——現金・預貯金がトップ
申告漏れが見つかった財産の内訳(構成比)を見ると、令和6事務年度は次のようになっています。
- 現金・預貯金等 43.3%
- 有価証券 29.1%
- 土地 13.6%
- 家屋 12.3%
- その他 1.7%
不動産よりも、現金や預金、株式などの「動かしやすい資産」が申告漏れの中心になっている点が特徴的です。名義預金(家族名義になっているが実質的には被相続人の財産)や、相続開始前に引き出した現金の申告漏れなどが典型例とみられます。
悪質なケースには「重加算税」
意図的な財産隠しなど悪質と判断されたケースには、通常より重いペナルティである重加算税が課されます。令和6事務年度は実地調査のうち1,065件(前年度比109.7%)に重加算税が賦課され、賦課割合は13.6%。対象となった金額は444億円で前年度から18.4%増加しました。
調査事例として紹介されているものには、次のようなケースがあります。
- 相続開始前に引き出した現金を相続人の自宅金庫に隠し、税理士にも伝えずに申告から除外していたケース(増差課税価格 約2億5千万円、追徴税額 約1億2千万円)
- 被相続人の預金を家族名義の口座に移し、無申告のまま基礎控除以下に見せかけようとしたケース(増差課税価格 約7億2千万円、追徴税額 約4億3千万円)
- 海外法人への貸付金を、返済を別口座に振り込ませることで存在を隠していたケース(増差課税価格 約4億4千万円、追徴税額 約1億8千万円)
海外資産がらみの調査が急増
グローバル化を反映してか、海外資産に関する調査も大きく伸びています。実地調査件数は947件から1,359件へと143.5%増、非違件数も168件から209件へと124.4%増加しました。申告漏れ課税価格は97億円(前年度比155.5%)、重加算税の賦課件数は6件から14件へとほぼ倍増しています。
地域別に見ると、非違件数が最も多いのは北米(104件)で、次いでアジア(77件)、オセアニア(26件)、欧州(12件)の順。背景には、CRS(共通報告基準)に基づく非居住者の海外金融口座情報や、租税条約に基づく国際的な情報交換の活用があるようです。連絡先が分からない海外居住の相続人に粘り強く接触して申告につなげた事例も紹介されており、国税庁が海外資産の把握・追跡に力を入れていることがわかります。
まとめ:相続税は「バレないだろう」が通用しにくくなっている
今回のデータからは、次のようなポイントが読み取れます。
- 実地調査・簡易接触ともに件数が大きく増加しており、国税庁の調査体制が強化されていること
- 調査に入られると8割以上の確率で申告漏れなどが見つかっていること
- 申告漏れの中心は不動産よりも現金・預貯金・有価証券であり、名義預金や生前の現金移動が狙われやすいこと
- 海外資産についても情報交換の仕組みを通じて把握が進んでおり、「海外にあるから分からないだろう」は通用しにくくなっていること
相続税の申告では、預金の動きや名義財産の扱いなど、見落としがちなポイントが申告漏れにつながりやすい傾向があります。心当たりのある方は、早めに税理士など専門家に相談することをおすすめします。

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