この記事でお伝えしたいこと
こんな方へ
食品の販売や農業を営みながら、貸店舗やアパートもお持ちの方。食品の消費税1%引き下げで、還付を受けられないかと考えている方。
分かること
課税事業者を選ぶと、食品事業だけでなく、店舗の賃料や賃貸建物の売却にも影響が及ぶこと。
先に結論を言うと
消費税は事業者ごとに判断するため、「食品事業だけ課税事業者になる」という選び方はできません。届出の前に、不動産の売却予定まで含めて試算してください。
不動産をお持ちの方が特に気をつけたい点は住宅家賃が非課税でも、建物の売却は別からどうぞ。
食品の消費税を1%に引き下げる案を受けて、食品販売や農業を営む方の中には、「課税事業者になれば、設備投資などで支払った消費税の還付を受けられるのでは」と考える方もいるでしょう。
ここで一緒に確認したいのが、所有する賃貸不動産です。
同じ個人や法人が食品事業と不動産賃貸業を営んでいる場合、消費税の選択は食品事業だけで完結しません。 店舗の賃料や、相続したアパートの売却まで含めて考える必要があります。
※本記事は2026年9月18日時点の情報に基づきます。食品の消費税1%は、2027年4月1日から2029年3月31日までの実施を予定する改正案です。国税庁の公表資料も、今後の法案の可決・成立を前提としています。国税庁・消費税率引下げ特設サイト
食品の減税で、なぜ還付が話題になるのか
本則課税では、売上げに係る消費税から、控除できる仕入れ・経費の消費税を差し引いて納付税額を計算します。控除できる税額の方が多ければ、還付が生じます。
食品の販売に係る税率が1%になる一方、機械・設備の購入や店舗家賃などには、引き続き10%の税率が適用されます。このため、食品事業では還付を受けられるケースが考えられます。
改正案には、対象となる食品販売事業者について、課税事業者の選択や、簡易課税から本則課税への変更に関する届出の特例も盛り込まれています。ただし、「食品を売っていれば必ず還付される」という制度ではありません。国税庁・改正案パンフレット
「食品事業だけ課税事業者になる」はできない
たとえば、個人で農業を営み、その人が貸店舗も所有している場合です。
課税事業者になるかどうかは、原則として事業者単位で扱われます。「農業は課税事業者、貸店舗は免税事業者」という分け方はできません。所得税では事業所得と不動産所得を区分していても、消費税の検討では両方を見る必要があります。国税庁・納税義務の免除
そのため、食品事業の還付見込みに加えて、貸店舗などの課税売上げと、それに対応する経費も含めて試算します。
なお、食品事業を営む法人と、不動産を所有する社長個人は別の事業者です。最初に「誰が食品事業を営み、誰が不動産を所有しているのか」を確認しましょう。
相続したアパートを売る年は、試算が大きく変わることも
影響が大きくなりやすいのが、賃貸建物を売却する年です。
相続によって建物を取得すること自体には消費税はかかりません。しかし、相続後に賃貸事業に使っている建物を、課税事業者として売却する場合は、建物部分が消費税の課税対象になります。土地部分は非課税です。国税庁・資産の譲渡の具体例、消費税等と譲渡所得
単純化した例で考えてみましょう。
ある食品事業者が、課税事業者として本則課税で申告する場合、建物の売却がなければ、その課税期間は80万円の還付になると見込んでいたとします。
同じ課税期間に、所有する賃貸建物を税込2,200万円で売却すると、次のようになります。
| 内容 | 消費税・地方消費税の合計 |
|---|---|
| 建物売却がない場合の還付見込み | 80万円 |
| 建物売却に係る売上税額 | 200万円 |
| 差引き | 120万円の納付 |
これは、土地代を含めず、売却に伴う追加の仕入税額控除や税額調整などがないと仮定した概算例です。
この例で伝えたいのは、食品事業で還付を見込んでいても、不動産売却まで含めると納付になる場合があるということです。
なお、200万円の売上税額が、そのまま「課税事業者を選んだことによる損失」になるわけではありません。売却価格の交渉、税込・税抜の契約条件、免税のままでいられるかどうかなども含めて比較する必要があります。
住宅家賃が非課税でも、建物の売却は別
「アパートの家賃には消費税がかからないので、建物を売っても同じでは」と思うかもしれません。
しかし、住宅の貸付けと建物の売却では扱いが異なります。
| 取引 | 基本的な取扱い |
|---|---|
| 通常の住宅家賃 | 非課税 |
| 店舗・事務所の賃料 | 課税対象 |
| 土地の売却 | 非課税 |
| 課税事業者による事業用建物の売却 | 課税対象 |
課税事業者になっても、通常の住宅家賃が課税に変わるわけではありません。一方、住宅として貸していた建物でも、その売却は課税対象になり得ます。国税庁・住宅の貸付け、消費税等と譲渡所得
また、「課税事業者になれば、アパート購入時の消費税もすべて戻る」と考えるのも早計です。一定の居住用賃貸建物の取得には、仕入税額控除の制限があります。店舗と住宅が混在する建物では、合理的な区分も必要です。国税庁・店舗併用の居住用賃貸建物の取扱い
すでに課税事業者の人は、検討する内容が違う
ここでは、次の2つを分けて考えることが大切です。
免税事業者が課税事業者を選ぶ場合
食品事業の還付見込みとともに、店舗賃料や事業用建物の売却について、新たに申告・納税が必要になる影響を確認します。
すでに課税事業者で、簡易課税から本則課税への変更を考える場合
この場合、事業用建物の売却は、変更前から課税対象です。検討するのは「売却に消費税がかかるようになるか」ではなく、「計算方法の変更によって納付税額がどう変わるか」です。
簡易課税は、実際に支払った消費税ではなく、売上税額と事業区分ごとのみなし仕入率を使う制度です。食品事業だけ本則課税、不動産事業だけ簡易課税という選び方はできません。国税庁・簡易課税制度
届出前に、不動産の予定も一緒に確認する
課税事業者の選択は、原則として2年間継続する必要があります。設備や建物の取得内容によっては、免税に戻ることや簡易課税への変更に、さらに制約が生じます。食品減税の終了と同時に、自動的に元の状態へ戻るわけではありません。国税庁・納税義務の免除
検討する際は、次の資料をそろえておくと、事業全体の試算を進めやすくなります。
- 食品事業の売上げ・仕入れ・設備投資の予定
- 所有不動産の一覧と用途、賃料収入
- 今後数年間の不動産売却・購入・大規模工事の予定
- インボイス登録の状況と、過去に提出した消費税の届出書
食品の減税は、食品事業の資金繰りを見直すきっかけになります。賃貸不動産も持っている方は、食品事業の還付額だけで判断せず、不動産収入や売却予定を合わせて比較しましょう。
特に、相続した賃貸物件の処分を考えている場合は、課税事業者を選ぶ届出と売却契約を進める前に、両方の予定を税理士に伝えることが大切です。
課税事業者になると、税務署から中間申告の納付書が届くことがあります。その仕組みはこちらで書いています。


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