先日、ご家族からのご相談で、すでに作成済みの遺言書を拝見する機会がありました。
金融機関にすすめられて作られた、公正証書遺言です。
※ご相談者が特定されないよう、内容は一部変えて書いています。
まず、作ってあること自体がすばらしい
最初に申し上げたのは、そこでした。
遺言書がないまま相続が始まると、相続人全員で遺産分割協議をすることになります。全員の合意が必要ですから、一人でも連絡がつかなかったり、意見が食い違ったりすると、そこで止まってしまう。
しかも公正証書遺言です。公証役場で作りますから形式の不備で無効になる心配がほとんどなく、原本が公証役場に保管されるので、なくす心配も書き換えられる心配もありません。
自筆で書いて引き出しにしまってある、という状態とはまるで違います。よく作られたな、と思いました。
ただ、中身を読ませていただいて、二つ気になることがありました。
気になったこと1、疎遠な親族にまで財産が渡る内容だった
ひとつめは、財産を分ける相手です。
もう何年も連絡を取っていない親族の方にまで、財産が渡る内容になっていました。
なぜそうなっているのか。おそらく遺留分に配慮した結果です。
遺留分というのは、一定の範囲の相続人に法律上保障された、最低限の取り分のことです。遺言でこれを下回る配分にすると、その相続人から不足分を請求されることがあります。
だから、あらかじめ遺留分に相当する分は渡しておく。そういう考え方で作られた遺言書は、実際とても多いです。安全策としては、たしかに理屈が通っています。
でも、ここで考えていただきたいことが二つあります。
ひとつは、そもそも遺留分がない相続人もいるということ。遺留分が認められる範囲は法律で決まっていて、相続人だからといって全員にあるわけではありません。ご家族の構成によっては、気にする必要がなかった、ということが起こります。
もうひとつは、遺留分を侵害する遺言も、無効ではないということです。
遺留分は、その相続人が自分から請求して初めて問題になります。請求しなければ、遺言のとおりに財産は動きます。そして請求できる期間にも制限があります。
つまり、「請求されるかもしれないリスク」と「一番渡したい人にきちんと渡す」ことを、天秤にかけて選ぶことができるのです。
もちろん、あえて遺留分を侵害する遺言は、揉める火種にもなり得ます。どちらが良いかはご家族の事情次第です。
大事なのは、選べるということを知ったうえで選ぶことだと思うんです。
気になったこと2、「執行」についての一行
もうひとつは、遺言の「執行」に関する部分でした。
遺言執行というのは、相続が起きたあとの実際の手続きのことです。金融機関の口座を解約して分ける、不動産の名義を変える、必要な書類を集める。やることは多く、正直に言って煩雑です。
ただ、これは相続人ご自身で進めることも十分できます。実際、多くのご家庭ではそうされています。手続きが難しければ、そのときに専門家に頼むという選択もあります。
拝見した遺言書では、この執行を特定の金融機関が行うことになっていました。そして、その対価として、財産額に対する一定の割合を報酬として支払う内容が書かれていました。
条項としては、ほんの一行です。
けれども、財産額に率をかけるわけですから、金額はそれなりのものになります。ご相談者は、その一行が将来いくらの支出を意味するのか、はっきりとは認識されていないご様子でした。
手続きを丸ごと任せられるのですから、サービスとして意味がないわけではありません。忙しくて手が回らないご家族にとっては、ありがたい選択肢でもあります。
問題は、中身と金額を理解したうえで選んだのかどうかです。
契約書の一行に、どれだけの意味が込められているか。ここは自分で確かめるしかありません。
作り直して、公正証書遺言をもう一度
そこで、あらためて内容を見直す打ち合わせをさせていただきました。
誰に何を渡したいのか。渡したくないところに渡ってしまう内容になっていないか。執行は誰が担うのか。ひとつずつ確認していきます。
そのうえで、新しく公正証書遺言を作るお手伝いをしました。
遺言は、何度でも作り直せます。あとから作ったものが優先されますから、前の遺言に縛られる必要はありません。ここは意外と知られていないところです。
一度作った遺言書こそ、読み返してほしい
遺言書は、作った時点でひと安心してしまいがちです。
でも、作ったきり読み返していない遺言書ほど、確認する価値があると思っています。作ったときと今とで、ご家族の状況も、ご本人のお気持ちも、変わっていることが多いからです。
そして、内容を決めるのはご本人です。すすめられたからそうした、ではなく、意味をわかったうえでご自分で選ぶ。それができれば、遺言書はずっと心強いものになります。
すでにお持ちの遺言書について、「これで大丈夫だろうか」と気になっている方。内容を拝見して、一緒に確認するところからお手伝いできます。お気軽にご相談ください。
なお、相続対策として法人設立を検討されていた方のご相談については、こちらの記事に書いています。

コメント